DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

 津本陽の短篇集『嵐の日々』を読んだ。
 冒頭2編が戦時中の学徒動員を扱った連作で面白かったが、他は土地や借金がどうとか言ってて読み飛ばしてしまった。にしても、津本陽が時代小説以外の作品を書いてて、しかもそれを耽美小説ばかりのイメージがある光風社出版で出していたというのが意外である。初出が「本願寺新報」というのも意表をついている。
 この作品に出てくる学生たちは国のために尽くすなどという意識はなくて、労働環境のあまりの悪さとホームシックに耐えかねて脱走を図る。しかし裏切りや予想外のアクシデントが重なり、教師たちに捕まってしまう。彼らは退学をまぬがれて一時的な帰省を許されたものの、危険視されて離ればなれにされる。
 発行は1983年だが、軍国主義学生運動の両方を批判してみせる周到な作品と言えるのではないだろうか。続編では戦争が激化し、航空機工場で働いていた主人公たちは空襲による大虐殺を目の当たりにするが、過ぎ去ったあとは淡々と作業に戻っていく。もはや戦争の敗北が決定していることは誰の目にも明らかで、少年たちは明日をも知れぬ中、今を楽しく生きることだけを考えている。これも恐らく学生運動後のシラケ世代のメタファーとして読むべきものであろう。
 思いがけず津本陽歴史観をストレートに反映している作品集で面白かった。

嵐の日々

嵐の日々