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山本亜紀子の『穴』を読んだ。
売れない小説家・真木栗勉は、住んでいるボロアパートの壁に穴を見つける。その日から、そこから隣人の部屋を覗くのが彼のひそかな楽しみとなった。ことに美人が引っ越してきてからは、それをネタにした小説を書きながら日々妄想に耽る毎日。だがある日彼は、穴から見える光景が自分の書いた小説の通りになっていることに気付く。半信半疑のまま自分も小説に登場させてみるが――
この発端を見れば、穴から見える光景はそのままの現実ではなくて、主人公の幻覚であって、やがて現実とも妄想ともつかない物語になっていく、という展開は誰でも予測できてしまう。そうなると読者の興味は、最終的に現実的な説明をつけるのか、あるいはすべて妄想ということにするのか、あるいはその両極端の間で着地するのか、といったオチの付け方に自然に向かっていく。
で、その点から見れば、個人的には非常に満足できる作品だった。最後まで100%妄想とも現実とも決定できないままなのだが、登場する人々がいずれも世の中からの外れ者で、コミュニケーションもまともに出来てないのだが、作中で彼らが束の間心を通わせるところがすごく良い。一応彼らはのぞき穴がかかわって出会うのだが、しかし出会った後の展開はもちろん穴は関知しないわけで、それであんな良い雰囲気になるということは、人はうまく出会うことさえできればそのあとは結構うまくいくんだよね、と言ってくれているかのようで、不思議と温かみを感じさせる読後感になっている。
この作品は『真木栗ノ穴』のタイトルで映画化されたとのことだが未見。作者はこれに続く作品はないようだが、ぜひ復活してもらいたい。
- 作者: 山本亜紀子,RODEO
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2004/07/08
- メディア: 文庫
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