DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

J・T・ブラナン『絶滅』A、新美健『明治剣狼伝』B

【最近読んだ本】

J・T・ブラナン『絶滅(上・下)』(棚橋志行訳、二見文庫、2016年、原著2014年)A

 考古学者が謎の構造物を地底に発見するプロローグに始まり、突然動きだす巨大な像、次々に人類に牙をむく鳥や犬たち、大津波大寒波など異常気象による大災害と、畳みかけるように世界中で異常な現象が続発する。世界規模の大混乱の果て、やがて物語は政府の陰謀、偶然にその真相を知ることになった人々、さらにその裏で暗躍する謎のカルト教団「惑星刷新教」の、三つ巴の戦いに収束していく。

 日本の作家で言えば松岡圭祐に近いだろうか。映像的な文章による高いリーダビリティ、壮大なスケールのハッタリ、次々に繰り出される派手なアクション、現れては消えていく脇役たち……鍵を握る秘密兵器は実のところ大したものではないのだが、偶然真相を知った一般人たちとそれを追う米軍の追いかけっこがなかなか良い。雪の森林をスキーで逃げ、遊園地をスナイパーから逃げ、市街地を戦車から逃げ、高層ビルの中を特殊部隊から逃げ、縦横無尽にあらゆるアクションを読ませてくれる。追手がどいつもこいつも人間的に未熟で、暴力衝動を満たすために軍に入ったような奴らが多いので、彼らが翻弄される様を見るのはなかなか痛快である。たった一作でここまでアクションをやってしまうと、他の作品でできることがなくなるのではないかと心配になる。

 これにストーリーの大半を奪われ、いまいち世界の危機的状況が実感しにくいきらいはあるが、まあそれはアクションを描くためのお膳立てに過ぎないだろう。鍵を握る秘密兵器「スペクトル9」は、自然界に存在する「第9のスペクトル」なる音波を発生させ、これを世界にまき散らすことで異常気象を起こしたり、原子構造を組み替えて巨大な像を動かしたりする――というやたら大雑把な兵器で、あまり真面目に考えているとは思われない。あと主人公も含め(途中で交代する)登場人物が結構あっさり報われもせず死んでいくので、食傷気味になるかもしれないが、とにかくスイスイ読めるし、読んでいる間はそれほど気にならない。

 どんなドタバタも終わらせなければならない以上、最後は普通に終わるのだろうと思って読んでいたら、ラスト30ページで真相が二転三転して、予想外のところで「あの伏線」が回収され、やられた!と思った。上下巻の大長編に対して変な言い方だが、よくできたショートショートを読んだ気分。

 時間のある向きにはおすすめしてみたい一作である。

 

 

新美健『明治剣狼伝』(ハルキ文庫、2015年)B

 本作で第7回角川春樹小説賞特別賞を受賞してデビューした新美健――その正体はアリスソフトの『戦国ランス』などエロゲーのノベライズで有名な沖田和彦・三田村半月である。……その他、細谷正充の解説に経歴がかなり詳しく書いてあるけど良いのだろうか。

 主人公は村田銃を開発した村田経芳。時は明治10年の8月頃、西南戦争が西郷軍の敗北で終わるのが決定的になっている中、村田に西郷救出の密命が下る。純粋に親友を助けたい大久保利通、西郷を助けようとしたという態度だけでも示しておきたい山県有朋、ジャーナリストとして英雄の死を劇的に演出したい福地桜痴など、曲者たちの思惑の中で旅立った村田は、集められた西郷救出隊と合流するが、早くもリーダーが殺されたり、道中で何者かに襲撃を受けたりと混迷の様相を呈し始める。果たして彼らは鹿児島にたどり着くことができるのか――

 正直言って物足りない。大阪から紀州街道を下り、山中宿で仲間と合流したあと、和歌浦から外海を渡航して九州へ、という旅が話のほとんどを占めてしまい、鹿児島潜入後の話は約320ページ中、100ページないくらいのものである。

 それは話の性格上仕方ないとはいえる。これは、明治という時代を受け入れられない男たちの物語なのである。主人公の村田とともに救出隊に加わるのは、元新選組斎藤一の他、新徴組や庄内藩、長岡藩の生き残りという、言ってみれば歴史の敗者というべき者たちである。彼らがそれぞれに独自の目的をもち、一方で仲間としての絆も深めていき、それがぶつかり合うことで悲劇が起こる――そういうドラマがおそらく主眼にあり、西郷本人は既に死を悟ったもののごとく、聖人のように描かれる(最終章タイトルが「西郷は巫女なり」というのもすごい)。どうもこの作品にも、昔からの西郷英雄観が支配的にすぎる気がするのが難点である。それならなぜあんな無様な負け方をしたのか、本作ではほぼ桐野利秋たちのせいになっているが、それは不公平というものだろう。救出隊の旅を描いたドラマは結構面白かっただけに残念である。

 ディティールとしては、村田経芳が出てくるだけあって銃の描写は詳しい。のちの有坂銃の開発者・有坂成章も出てくる。幸い『ゴールデンカムイ』のおかげでピンとくるものがあった(村田銃が出てくるし、有坂をモデルとしたキャラもいる)が、それがなかったらよくわからなかったかもしれない。

 こういう変わった視点を北方謙三が評価したというのは肯けるところであるが――個人的にはもっとドラマティックに、甲斐弦『明治十年』なみの大長編で読んでみたかった。彼らが出航した和歌浦の港は神武東征の上陸地であると示唆されたり、どうも日本神話の象徴があちこちに仕掛けられているらしいのだが、あまりそこまで深く調べるような気にはなれなかった。