DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

最近夏目漱石の小説を何作か読んだ。
漱石の小説は、安っぽい大衆小説のようなところがある。
物語の現在は常に「その後」である。『こころ』の先生や『門』の宗助は、過去に既に決定的な事件を経験し、それを背後に隠した、しかしその大きな影を負っている、そんな日常を送っている。
ぼくたちは何気ない日常描写の端々から、その「何か」を嗅ぎ取りながら読んでいく。


しかし実のところ、散々焦らした末に明かされる「何か」というのは、友人の恋人を奪ったとか、多分当時としても下らないものでしかない。
だから漱石は、照れ隠しのように、その直後に急展開を入れる。
先生が自殺を決意したり、宗助が仏門に入ろうとしたり。
それはたとえば現代では頭のいい作家が、途中までベタな物語を書いてても、最後は突然メタフィクションにして冷静に批評してみるようなものである。
漱石の場合、人はそれを近代の知識人の苦悩とか呼ぶのだが、あいにくとそんな躁状態も長くは続かないのが、おそらく漱石のツラいところなのだと思った。