DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

 映画『アンジャリ』を観た。
 1990年インド映画、インド国立映画祭タミル語映画賞受賞、という物珍しさにレンタル落ちを買ってきた(DVDは出ていない)。インド映画と言ったら『踊るマハラジャ』くらいしか聞いたことがない(観たことはない)が、あれと同様にやたらダンスのシーンが入っている。踊っているのは町の悪ガキたちである。インド映画というのはどれもああいうものなのだろうか。子どもたちは夜も昼もみんなで集まって、街を駆け回って大人に悪戯をする。しかしそれで保護者たちが非行を心配して警察に苦情を言っているあたり、インドといえどもしっかり市民社会が成立している。
 しかしそれ以外にもなんというか、ドラマツルギーから自由というのか、不思議な映画だった。そもそも本編が2時間半もあるのだが、主人公のアンジャリは1時間くらい経たないと出てこない。それまで、4人家族の日常風景と子どもたちのダンスが延々続く。そんな中で、SFを読んだ家族がスターウォーズのパロディで宇宙戦争を延々やったりと、やたらお金を遣っている。
 物語は、冒頭である幸せな4人家族の家に一人の女の子が生まれたところから始まる。いや、物語そのものが始まるのは1時間後である。生まれた子どもは、脳や身体に障害を持っていて、普通の生活は無理だった。それを知った父親は、家族に対しては、その子が生まれてすぐに死んだと告げ、ひそかに施設で育てていた。「死んだ妹」のことが心に影を落としながらも、家族は平穏な生活を送っていた。
 だが2年後、偶然からアンジャリのことがバレて、少女は母親のたっての希望で家族のもとにくる。話すこともできず、ただニコニコするだけのアンジャリを、兄妹は気味悪がって嫌い、近所の子どもや大人も、彼ら家族を排斥して追い出そうとする。やはりインドが舞台とはいえ、描かれるのはごく普通の市民社会であるように見える。だが彼らは、衝突を経てアンジャリを受け入れていくことになる。子どもたちはアンジャリが天使に愛された子と聞き、大人たちは自分たちもまたそれぞれすねに傷を持つ身であることを指摘されて。
 それで解決してしまうような雰囲気のおおらかさは、やはりインドらしさというものなのかもしれない。一応あらすじではアンジャリの存在により人々の心が慰められていったことになっていたが、実際はそうでもなくて、ごく自然になりゆきで、みんな仲良くなっていく。
一方でアンジャリは、みんなが仲良くなったところで、無理がたたって死んでしまい、みんなが悲しみに沈んで終わる。
 部分部分ではお金を遣っていて贅沢ではあったが、全体で観ると釈然としない、不思議な映画だった。


監督・脚本:マニラトナム、美術:トーッター・タラニ、音楽:イライヤラージャ、作詞:パーリ、撮影:マドゥ・アンバト、プロデューサー:G・ヴェンカテシュワラン、録音:バーンドゥランガン、編集:レーニン&VTヴィジャヤン、製作:スジャータ・プロダクションズ、主演:ラグヴァラン、レーヴァティ、ベビー・シャーミリ他