DEEP FOREST/幻影の構成

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『橋のなんでも小事典』(ブルーバックス)を読んだ。

橋のなんでも小事典―丸木橋から明石大橋まで (ブルーバックス)

橋のなんでも小事典―丸木橋から明石大橋まで (ブルーバックス)

 これは土木学会関西支部の会員が編集したもので、この学会の編集書には、他に『川のなんでも小事典』『水のなんでも小事典』『コンクリートなんでも小事典』などがある。ちなみに「なんでも小事典」シリーズは、日本音響学会の『音のなんでも小事典』、日本香辛料研究会の『スパイスなんでも小事典』、パーソナルコンピュータユーザ利用技術協会の『パソコンなんでも小事典』など、各種ある。いずれも複数の執筆者が、さまざまなトピックを数ページ程度にまとめて紹介するというもので、やや簡潔なきらいはあるし、名前通りに事典として引くような性格のものではないものの、話題は幅広く、入門書としては手っ取り早い。
 本書はその中でやや異色な存在であると思う。ブルーバックスというからには設計や構造などの観点から橋を解説しているのだろうと想像するところであるが、数式は覚えている限り一切なく、代わりに古今東西の歴史をひもとき、橋のエピソードや、それにまつわる技術的側面を紹介している。
 その話題も幅広く、浮世絵のヨーロッパ印象派への影響から橋の描かれ方を語ったかと思えば、橋という名詞の男性・女性の議論をしたり、橋の作り方から日本文化と西洋文化の違いを考察したり、橋の擬宝珠の分類や歴史をつづったり、あまり語られることのない柴田勝家の土木事業を紹介したりとさまざまである。挙げられる文献や美術品も、『日本霊異記』や『平家物語』から、滝沢馬琴の『兎園小説余録』や、張択端の「清明上河図」など、全く知らないようなものもあり、にわか勉強とも思えない。大崎順彦の『地震と建築』(岩波新書)も、冒頭で菅原道真地震論について分析していたが、土木系出身者にはそういうしきたりでもあるのか。
 これはブルーバックスで出したのが間違いで、『橋の文化史』とでもして講談社現代新書あたりで出せば、もっと読者を獲得できたのではないだろうか。読んでいる間は面白いのだが、ブルーバックス的な内容を期待していると、読み終えたあとになんとなくだまされた気分になってしまうのである。