DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

ブレイク・クラウチ『パインズ 美しい地獄』B+、今村昌弘『屍人荘の殺人』A

【最近読んだ本】

ブレイク・クラウチ『パインズ 美しい地獄』(東野さやか訳、ハヤカワ文庫、2014年)B+

 ある男が路上で目覚めるところから始まる。彼は記憶を失った状態でふらふら歩きだすが、やがて自分がシークレットサービスの特別捜査官であること、失踪した同僚を追ってある街に潜入したところで事故に巻きこまれたことを思い出す。外界からの連絡手段を絶たれ、街の住民も彼に不自然な態度をとるなかで、彼は事件の真相と街からの脱出手段をもとめて彷徨する。

 シャマランがドラマ化した小説で、原作からシャマランらしい、という評価を見ていたが、確かにシャマランらしい。それがどこかというと、自己のアイデンティティを求めてさまようというカフカ的な悪夢世界よりも、動ける程度に傷だらけでずたぼろになって、頭痛に苛まれながら、人々の冷たい仕打ちに堪えつつ街をさまようところが、シャマランらしいような気がする。特にずっと頭痛に苛まれているところがとてもシャマランぽい。この彷徨が執拗に描かれる間、主人公のいらだちが伝わってきてとても良いのである。

 明かされる真相は賛否両論で、どちらかというと不評な感じであるが、期待値を下げて読むとそんなに悪くはない。むしろ、『進撃の巨人』のようにネタが割れてからが本領発揮になるか、それとも『約束のネバーランド』のように失速するかが注目だろう。

 

 

今村昌弘『屍人荘の殺人』(創元推理文庫、2019年、単行本2017年)A

 まったく内容を知らずに読んで、こんな話だったのか、と驚いた。ミステリ研究会に背を向けてミステリ愛好会をつくった探偵志望の変人と、それに入ってしまったワトソン的立ち位置の若者が、こちらは既にプロの探偵のようにいくつも事件を解決している女性の先輩に誘われ、不穏な気配のある映画研究会の合宿に参加する――という、まあ青春ミステリらしい発端から、ある事件が起こって物語が一変する。

 これはやはり、何も知らずに読んでこそ楽しめるというものだろう。

(以下ネタバレ)

 むかし映画版の予告編を見たことがあるが、いかにネタバレをせずに見どころのシーンをもってくるかにかなり気を遣っていたかがわかって、そこに感心した。

 ゾンビの襲来、探偵の死と、定石を外す展開の連続で前半は息つく暇を与えず、その後は本格物としてちゃんと終わるところもすごい。ただ個人的には本格物の宿命として、不合理なはずの人間の感情まで次々と論理的に説明されてしまうので、明かされる世界がやや小ぢんまりとしてしまう気がする。あとは、みんな状況への適応が速すぎるというか、ゾンビというものの性質への理解がありすぎる気がするのも、まあゾンビものへの批評的な視点といってしまえばそれまでかもしれないが、やや素直すぎるのでは?とも思った。

 これが出たときに読者がみんな考えたのは、これは続編が出るのか?ということだろうが、一年以上の間をおいているとはいえ既に3作まで出ている。ミステリとして続くのか、それともパニックものや謀略ものに比重が移っていくのか、気になるところだ。