DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

沢木耕太郎『危機の宰相』A、さがら梨々・岡本健太郎『ソウナンですか?10』A

【最近読んだ本】

沢木耕太郎『危機の宰相』(文春文庫、2008年)A

 池田勇人は、所得倍増計画をぶちあげ日本の高度経済成長をもたらした。そう言ってしまうと簡単であるが、日本経済がああも発展するなどと想像することすら難しかった時代に、なぜそんなことを思いつけたのか。それを、池田のブレーンだった下村治に求めるのが一般的だったのをさらに踏みこんで、彼らを結びつけて池田を総理にしようと奔走した田村敏雄なる人物を掘り起こし、三人が歩んだ戦後史を掘り起こしていく。

 背後に膨大な資料の読みこみがあるのだろうが、それを感じさせず、ひとつの理想を追い求めた時代の空気も含めてドラマを描き出していく。池田勇人など、先日読んだ『小説田中軍団』の田中角栄にしてみれば旧世代の政治家でしかなかったが、ここでは彼こそが挫折の中から立ち上がった青春の政治家である。大和田秀樹疾風の勇人』も、続いていればこういったドラマを描いていったのだろうか。

 

さがら梨々岡本健太郎『ソウナンですか?10』(ヤンマガKC、2022年)A

 新刊で買ったのを今さら読んだ。

 長きにわたる無人島のサバイバル生活の末に、9巻のラストで帰ることに成功し、最終巻は1巻かけたエピローグという趣で、日常生活に復帰した彼女たちの新しい生活が描かれる。これが平和にみえつつも進撃の巨人の壁から出た後の話のような不穏さがときおり混じり、これはもしかして夢から醒めてまだ無人島にいたというオチなのでは? と不安になってしまったが、さすがにそんなことはない。新しい生活に戸惑いながらも持前の明るさで切り抜けていく、良いエピローグだった。