今東光『蒼き蝦夷の血 第4巻』B、馳星周『不夜城』B
【最近読んだ本】
今東光『蒼き蝦夷の血 第4巻 奥州藤原四代・秀衡の巻 下巻』(徳間文庫、1993年、単行本1978年)B
古本屋に最終巻の4巻だけあったので買ってきてみたが、中をのぞくとほとんど義経による平家滅亡の話だったので、問題なく読める。話は平家の都落ちの直後、かわって都に入った義仲が人気を落とすあたりから始まり、壇ノ浦で平家が滅亡して勝利の喜びもつかのま、義経の周辺がややきな臭くなってくる、そこで作者が亡くなり、奥州藤原氏の滅亡は描かれずじまいになってしまった。生きてさえいればさぞ傑作が――と言いたくはなるが、しかしこの巻の秀衡は各地に忍者(かの金売りの吉次もそのひとり)を放って全国の動静を探らせているばかりで何もせず、タイトルにはやや偽りがある。そして主人公格の義経は、都の風に染まって鼻持ちならない人間になっており、弁慶や伊勢三郎に危ぶまれている。
そして450ページ近くかけて描かれるのは、平家ひとりひとりの死に様である。名前のある人間は全員でてきたのではないかという勢いである。そして読んで感じるのは、いかに不運が重なって平家が滅亡したのか、生きのびるチャンスがどれほどあったのか、そしてどれほどの可能性が失われたのか。鎌倉に閉じこもった源氏政権とちがい、平家政権が生きのびていたら日本は海洋国家になっていたのではないか、などの指摘もあって面白い。
馳星周『不夜城』(角川文庫、1998年、単行本1996年)B
馳星周を読むのは初めてである。開いていきなり主人公が劉健一(リウジェンイー)ときて、これはもしかして峰倉かずや『最遊記』(1997~ )の黒幕的存在の你健一(ニージェンイー)の元ネタなのではないかと思ったのだがどうなのだろうか。
500ページ以上あるが、意外に読みやすい。新宿歌舞伎町に生きる無頼の男が、ころがりこんできた女を助け、マフィアのボスを殺そうとする――という目的がはっきりしているため、さまざまな人物や陰謀がからみあうものの見失うことはない。
ハードボイルドとセンチメンタルなところがうまくバランスを取れていて良い作品だった。