DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

 服部あゆみ・布施由美子の『鈴色・物の怪パーティ』(コバルト文庫、1991年)を読んだ。

コミック小説、という形式の本である。要はイラストが挿絵の領分を超えて本文と一体化している、とでもいおうか。まあそんな仰々しいものではなく、こんな感じである。




 時にページの3分の2をこえるイラストが、時にテキストを優越し、物語を進めていく。なれるには多少時間がかかるが、入り込めれば視覚と言語による、多面的な物語体験ができるのではないだろうか。自分は年齢のせいか、なれることが最後までできず、かえって時間がかかってしまった気がするが……
 こういう形式は、少女小説の、小学生向けくらいのもので見たことがあるが(令丈ヒロ子やぶうち優の『うらない屋こコノミちゃん』など)、それ以外では竹本健治ウロボロスの基礎論』で、本編が急に竹本や他の作家のコミックに切り替わる構成になっていたり、海猫沢めろんの『左巻キ式ラストリゾート』が「凝ったDTP」で話題になったりと、いくつか特異的に挙げられるだけで、系譜を形作るほどのものにはなっていないと思われる。何せ本作はほぼ全ページにイラストがあるし、版組みも大変そうなので、なかなかマネをするのは難しいのだろう。あとがきでは二人とも同じ仕事場で作業していた風に読めるが、メールも使っていない90年代ではそうでもなければ大変である。
 それでもシリーズ化はしたようで、


  恋色・魔法猫パニック(1989.11)
  風色・水晶珠(クリスタル)トラブル(1990.8)
  夢色・眠り姫ロマンス 前・後(1991.1, 4)
  海色・人魚姫(マーメイド)ララバイ(1991.8)
  鈴色・物の怪パーティ(1991.12)
  花色・結婚式(ウェディング)ドリーム 前・後(1992.3, 4)
  蜜色・白雪姫ウォーズ(1992.7)
  月色・幽霊城プリズム(1992.10)
  虹色・伝説珠(クリスタル)メモリー(1993.2)
  星色・不思議(マジカル)ワールド(1993.4)
  愛色・聖天使ファクト(1993.9)


 さらに、つながりは不明ながら、


  魔法のランプ199X(1992.12)
  神竜の赤い糸伝説(1993.4)
  ソルジャーズ・パラダイス(1993.12)
  赤い閃光(1994.4)


 と、多数の作品が、アマゾン上では共著として確認できる。完結したかは不明であるが、それなりにシリーズとして好評を得たようである。
 本書の内容は……まあ、シリーズものの中の中途半端な位置の作品なので、何ともいいようがない。一応シリーズ全体の流れとしては、この世界とは別の異世界が存在し、その世界への扉を開くのが、タイトルに時折出てくる不思議な水晶珠。水晶珠は複数あって、それを集めるのが物語上のひとつの目的である。で、タイトルにあるように、本作ではその力で、ムジナをはじめとする物の怪たちと出会っていた。タイトルから察するに、他の巻では人魚姫や眠り姫や白雪姫などと会うことになるのだろう。
 本作では主人公たちは妖怪たちの策略で異世界に引きずり込まれ、『夏目友人帳』のような百鬼夜行の祭りに遭遇し、身体を乗っ取られたり、殺されそうになるのだが、すぐにそれぞれの機転で切り抜けて帰ってきてしまう。そしてエピローグで謎の水晶の力を不思議がるだけである。主人公たちにとって異世界はただ「ある」だけで、それを知っても何もしようとはせず帰って来る。物語において全く、未開拓のフロンティアたりえないのがなかなかすごい。いちいち陥る危機にしても、主人公側にやたら強いキャラがいるので、特に心配もなく終わり、こんなので許されたのだろうかという感じだが、いかんせん途中の巻なので仕方ない。ただ割とキャラが多く、そろいもそろって能天気にドタバタしているので、前世ものの雰囲気を持ちつつも、あまり世界の命運をかけて戦うような悲壮感はなく、ファンタジー的世界観を楽しむのが趣旨のようである。
 キャラ構成は、主人公がサッカー部所属の女の子で、頼りになる幼なじみの少年(超常現象研究会所属だがマトモな性格)、鍵を握る水晶を彼女らにもたらした謎めいた少年という三角関係が中心にあって、この不安定な構造がどのように進展していくのかに個人的には期待したい。あまり悲壮な展開にはならないようだが……
 いずれまた、他の巻にめぐりあうことを祈る。

鈴色 物の怪パーティ (コバルト文庫)

鈴色 物の怪パーティ (コバルト文庫)