DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

 江戸時代の陽明学者・大塩平八郎が起こした反乱の真相とその顛末を描く。
 主人公の光武利之は、御庭番衆の統括者・村垣定行の妾腹の子として生まれた。彼は剣術はかなりの腕前だが、人生に打ち込むべきものを見出せず、特に仕事をするでもなく無為の日々を過ごしていた。父に薦められ、深刻な米不足に悩む大阪に来た彼は、大塩平八郎の養子・大塩格之助に出会う。彼は、商人と役人の結託による政治の腐敗への憤りと、平八郎の掲げる無茶な理想論の間で板ばさみになっていた。厳格な彼のもとで萎縮していた格之助は、気ままに生きる利之との出会いをきっかけに、自分を見つめなおし、己の道を探る力を得ていく。だが悲劇はすぐそこまで迫っていた……
 解説でも触れられているが、利之はハードボイルド小説の主人公のように、あくまで傍観者に徹しているように見える。彼は幕府と平八郎をどちらも批判的に見て、結局反乱には加わらない。そういった立場にいることにより、大阪の米不足の原因――ここでは商人による買占めと、その背後での老中たちの政争、そしてそれに利用される形で反乱を起こした平八郎一派――という複雑な政治背景を目の当たりにすることになる。それをわかっていながら結局彼は格之助を引き止めることもせず、ただ成り行きに任せていた。そして最終的に幕府の腐敗に愛想をつかした彼は、武士という身分を捨ててしまう。
 しかし、完全な傍観者などというのはどう見ても嘘で、彼は格之助だけでなく平八郎の門人に甚大な影響を与え、一つの脅威にまでなっていく。随所に現れて謎めいた助言をして去っていく老い間宮林蔵と比較してみれば、利之が深入りしているのは明らかなである。見捨てきれず、積極的に関わることも出来ず、北方自身の学生運動経験がどの程度影響しているのか知らないが、読んでいてどうも煮え切らないものを感じてしまった。

杖下に死す (文春文庫)

杖下に死す (文春文庫)