藤野可織『おはなしして子ちゃん』A、司城志朗『存在の果てしなき幻』B
【最近読んだ本】
奇想小説と呼ぶのにふさわしい短編集である。標本の猿がしゃべりだすとか、人魚のミイラ(の作り物)が意識をもっているとか、写真を撮ると必ず心霊写真になるとか、ややグロテスクなアイデアで、意識がツッコミを入れる隙を与えずに最後まで読まされる。多くは分類不能な、「変な小説」としか言いようのないものであるが、「美人は気合い」のようにSFの意識が強いものもあれば、のちに長編化した「ピエタとトランジ」のような、ミステリのパロディのようなものもある。自由なようでいて、かなり計算されて書かれているようにも思える。
正直『爪と目』で話題になって以来、あまり興味がわかずに敬遠していた作家だったが、これはもったいなかった。この系列の作品集としては2020年の『来世の記憶』があるだろうか?
司城志朗『存在の果てしなき幻』(カッパノベルス、2001年)B
矢作俊彦の共作者としての印象が強い著者の単独作である。さすがにベテランという筆致で最後まで読まされた。
人材派遣会社の社長を営む男が、ある日突然娘が事故にあったという報せを受けるが、病院に駆けつけると入院の記録はない。狐につままれた面持ちで家に帰ると、妻も娘も失踪している。自身の会社はいつの間にかビルからきれいに消えている。知り合いに連絡してみてもはっきりしない。
好きなシチュエーションで、ここまで不条理な状況に設定しながら、最後にちゃんと説明がつくことに感心した。冒頭の電話を受けるシーンは、まあ初見でわかるわけがないが、読み返すとうまくだまされたという気になる。
ただ、主人公の追い込まれる状況があまりに過酷で、そこでちょっと楽しめなかった。最後は前向きに終わるのが、唯一救いではあった。