DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

矢部嵩『紗央里ちゃんの家』B、佐神良『僕らの国』B

【最近読んだ本】

矢部嵩『紗央里ちゃんの家』(角川ホラー文庫、 年)B

 「僕」が毎年恒例で訪れる親戚の紗央里ちゃんの家は、小学5年の年はどこか違う。祖母がいつの間にか亡くなっていたと知らされ、紗央里ちゃんはおらず、出迎えた叔母は包丁をもって血まみれで現れ、誰に何を聞いても答えてくれない。そして何が起こっているのか探る「僕」は、洗面所の床に指が落ちているのを発見する。

 ほとんどの文が「た。」で終わっているのが気になるが、文庫で160ページ程度で一気に読める。どうやら祖母は殺されていたらしいとわかってくる状況だけでなく、「僕」が落ちている指を隠すために口に放りこむなど、語り手自身も大幅に狂っているとわかってくる構成は手法としてはベタであるが、グロテスクな描写の連打や、コミュニケーションがまったく取れないわけでもないギリギリを攻めた会話など、飽きさせずに読ませる。

 真相は漠然としたまま、解説もなく終わってしまうが、それもまた宙づりにされて良しである。

 

佐神良『僕らの国』(光文社、2005年)B

 南関東が大震災により崩壊し、大規模な気候変動で人跡未踏の「自由地帯」となった旧幕張地区。10年後、熱帯のような奇妙な生態系が発達したそこへ、生物部の調査として高校生たちが潜入する。青春の一コマになるはずだったそれは、一人のメンバーが行方不明になったことで暗転し、彼らは遭難した末に、震災後もそこで独自の生活を営む子どもたちと出会う。

 震災後も外部と接触を絶ってコミューンを形成する特殊な学校の存在を軸に、その背後に隠されている陰謀、教師たちや子どもたちそれぞれの夢や思惑、真実を知ったものたちの怒りや葛藤が描かれ、終盤は二転三転する真相の果てに、すべての崩壊と残されたものたちの再生へ続く。近未来サバイバル小説として面白い要素がてんこもりのはずなのだが、しかし思ったほどの満足感は得られない。

 個人的には、自然描写が薄かったのが不満かもしれない。幕張地区には熱帯のジャングルのような生態系が発達しているはずなのに、読んでいると普通の原っぱを歩いているような感じであるし、いくら自然の浸食になすがままであるとはいえ、もともと関東であった痕跡もあまり言及されない。ビジュアルでもっと見せてもらえば違ったのかもしれないが。自然描写だけでひとつの作品として成り立ってしまうような濃密さがほしかったと思う。

 とはいえ、作者としては本当に書きたかったのはむしろ後半になって明かされてくる、奇妙な教育理念を掲げる学校の姿であり、それが未曾有の事態にどう立ち向かえるかということであり、そうした学校のオトナたちに思惑に翻弄されながら自分の夢のために生きる若者たちという構図にあるのだと思う(作者は塾講師らしい)。ただ、そうだとするなら、オトナたちがあまりに子どもじみていて、あまりそういった対立という構図は明確にはならなかった気がする。

 しかしそれでも、終盤で夢やぶれて次々に死んでいく少年少女の姿は、どうしようもなく胸を打つものがある。それが無駄死にであろうと、報われなかったとしても、彼らは生きていたという痕跡を読者には残していくのである。それはつまり、文句はいいながらも、確かな世界を見せてもらえたということであろう。