DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

最相葉月星新一 一〇〇一話を作った人」(新潮社)に、

水俣病四日市ぜんそくなどを特集した「公害 この絶望的現実」(「週刊読売」昭和四十五年九月二十四日号)では、筒井、眉村、新一の三人がルポを競作した。(p.358)

という記述があったので、おおッと思って早速借りてきてみたのだが、
読んでみたらいつものショートショートが載っているだけだった。
大体コーナーのタイトルからして「特別読み物 ああ公害未来社会」である。
お堅い話ばかりではなく、息抜き的な読み物も入れようとしたのだろうか。
あと、なぜか最相は書いてなかったがこれは臨時増刊号であり、福島正実も参加している。


収録作品は、

眉村卓「いたちごっこ」:プラスチック分解バクテリア開発をめぐる騒動
星新一「けがれなき新世界」:「公害監視協会」がやがて政府をも動かす組織に…
福島正実「海ぼたる」:海ぼたるの美しい景色に環境破壊の予兆を見る詩的作品
筒井康隆「2001年公害の旅」:公害から逃れ田舎へ移住した夫婦の悲劇

の四作品。
福島以外はブラックユーモア風というのが意識の違いというべきか、
ほかの記事の危機感をあおるトーンに対して、
やや異なる角度から社会を皮肉っている感じの作品が多い。
たとえば眉村の作品は、バクテリアを開発すると、
それに食べられないプラスチックが開発されてしまい、
主人公たちはさらにそれを食べるバクテリアの開発にとりかかることになり、
馬鹿馬鹿しいが仕方ない、というオチで、
一応資本主義社会の批判ではあるかもしれないが、
公害問題の悲劇的な調子とは異なった独特なユーモアがある。
最近のショートショートのレベルはよく知らないが、
いずれも今読んでもそれなりによくできていると思う。


福島は別にしても、ほかの作品は何らかの単行本に収録されているはずで、
確認もせずに適当なことを書きやがって、だまされた気分である。



それはそれとして、この本は当時相当話題になったらしく、
水俣病など公害問題のルポルタージュの中に、
いくつか僕の高校時代の政経の教科書にあった文章を見つけた。
水俣病について書いたもので、

ネコが狂い出した。廊下を走る。猛烈なスピードでガラス戸にぶつかる。あと足で立ち上がり、からだをくねり、首を激しく振る。
“ギャオ”
鳴き声も元気がない。同じネコがふえた。
「ネコが気が狂うたバイ」
ネコは死んだ。次々に――。カラスがむくろをあさったという。(p.40)

このシーンを読んだときの恐怖はいまだに覚えている。


あと、「目で見る市民の公害意識調査」というのがあって、
これが結構ひどい。
たとえば総理府のアンケートでは「あなたが日ごろ迷惑を受けているものは何ですか」という問いがあって、
これに対して「迷惑を受けているものはない」がトップである。
対して読売新聞社による「あなたは現在公害に悩まされていますか」は「悩んでいる」がトップであった。
それぞれ求めている答えが質問で丸わかりである。
「日本の経済力は非常に発展しましたが、あなたが経済発展のおかげで最もよかったと思う点はどれですか」という問いに対する答が、

「生活水準が上がった」
「余暇がふえて生活が楽しくなった」
「都市と農民の格差がなくなった」
「道路、交通機関が立派になった」
「日本の国際的評価が高まった」
「商品が、豊富になった」

だったのに、
「反対に最も悪かったと思う点はどれですか」に対し、

「物価が上がり、生活がかえって苦しくなった」
人間性が失われた」
「貧富の差が大きくなった」
「公害、労働・交通災害が増えた」
「自然が破壊された」
「退廃的な社会風潮を助長した」
「過疎、過密のアンバランスを生んだ」

と、ほとんど矛盾した結果が出ている。
どちらも嘘ではなかったのだろうけれど、
70年代という時代のつかみにくさを感じる。