DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

スパイ小説・『反転したテスト・ミサイル』(原題:Samarcand Dimension、デイヴィッド・ワイズ著、新潮文庫)を読んだ。
東西冷戦の真っ只中、アメリカは最新鋭ミサイルの試写を極秘裏に行っていた。最新科学の成果の結集により、軌道の誘導がある程度可能なミサイルは、軍事力においてソ連に大きく差をつけるはずだった。
だが発射されたミサイルは突如反転、発射基地の近くに落下した。物理的にありえない現象に、アメリカ政府はソ連の超能力集団による妨害と判断し、腕利きのCIA所属スパイ・マーカムに、ソ連の超能力研究の実態を探るように命令する。渋々ながら調査を始めたマーカムは、アメリカの超能力部隊のテレパシー攻撃や透視能力、物質移動などの成果を目の当たりにし、徐々にこの任務の重要さを認識していく。アメリカがこのレベルだとすればソ連はどこまで進んでいるのか?
使命感を抱いてサマルカンドソ連超能力研究所に研究者の一員として潜入したマーカムは、しかしあっさり正体を見破られ捕まってしまい、拷問の末アメリカの超能力研究の実態を喋らされてしまう。解放されてアメリカに帰った彼を待っていたのは、上層部の冷たい仕打ちだった。すなわち問答無用でクビ。
読んでいて気になるのはやはり、ここでの「超能力」は本物なのか? ということで、本物ならこのパラレルワールドの国際情勢はどうなっていくのか、ニセモノなら何故こんな大掛かりなお芝居をしているのか、という興味に繋がっていくわけだが、お粗末な結末だった。ネタバレしてしまえば、超能力実験は全部役者を使ったニセモノ、ミサイル反転事件もレーダーを誤作動させただけというオチ。すべてはマーカムを騙すために仕組まれていたのだ。何故そんな大芝居を打ったのかといえば、優秀なスパイが超能力の実在を信じ込んでソ連でその情報を吐けば、ソ連は慌てて超能力研究に多額の予算をつぎ込み、大ダメージを与えられる、というもの。なんかショボい。目的はわかりやすいけど、映画の『アマルフィ』なみに回りくどい。
どうもこの著者、本来は諜報機関関係のノンフィクションが本業らしく、その余技で書いたものということかもしれない。実際ロマンスあり、グルメあり、観光あり、といった、スパイ小説定番のお楽しみ要素には事欠かない。なので最後にはマーカムは「真実」を知ったことで組織の歯車としての自分を痛感した挙句、殺し屋に追われ、俺は負けないぞ、みたいなとってつけた感じの決意をして終わる。各要素はきっちり押さえているだけにもう少し頑張ってもらいたかった。

反転したテスト・ミサイル (新潮文庫)

反転したテスト・ミサイル (新潮文庫)