DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

2022-01-01から1年間の記事一覧

雑喉潤『三国志と日本人』B、片岡義男『スローなブギにしてくれ』B+

【最近読んだ本】 雑喉潤『三国志と日本人』(講談社現代新書、2002年)B 日本における三国志の受容を紹介した本。太平記や八犬伝への三国志の引用、吉川英治版における史実と創作の比較などを紹介してなかなか面白いが、読んでいるとただネタを並べて見せて…

リットン・ストレイチー『エリザベスとエセックス』B+、三宅乱丈『fish』1巻B

【最近読んだ本】 リットン・ストレイチー『エリザベスとエセックス』(福田逸訳、中公文庫、1987年、原著1928年)B+ イギリスでは高名な伝記作家であるらしい。エリザベス一世(1533-1603)の晩年において女王の寵愛を受けながら、失態を重ねて巻き返そうと…

陳舜臣『インド三国志』B+、石持浅海『人面屋敷の惨劇』B

【最近読んだ本】 陳舜臣『インド三国志』(講談社文庫、1998年、単行本1984年)B+ ムガル帝国最大の版図を築きながら、同時に帝国の衰退の原因もつくったアウラングゼーブ帝を中心に、マラーター族を率いて生涯ムガル帝国を苦しめた英雄シヴァージー、イン…

北野勇作『どーなつ』B+、岡嶋二人『クラインの壺』A

【最近読んだ本】北野勇作『どーなつ』(ハヤカワ文庫、2005年、単行本2002年)B+ 何者かによる日常への侵略を、侵略された者たちの意識から描いているので、何が起こっているのかわかるようなわからないような、そういう連作短編集。 最近はどうだか知らな…

大島直政『ケマル・パシャ伝』A、アンナ・クラーク『ルースをさがして』B

【最近読んだ本】 大島直政『ケマル・パシャ伝』(新潮選書、1984年)A オスマン帝国のもとで史上空前の繁栄を謳歌しながら、宗教の制約による西洋の近代化に遅れをとり、列強の蚕食を受けそうなところを、軍事・政治両方の才能によりトルコ国民を率いて独立…

小野寺公二『平泉落日』A、井上恭介・藤下超『なぜ同胞を殺したのか ポル・ポト 堕ちたユートピアの夢』A

【最近読んだ本】 小野寺公二『平泉落日』(光文社文庫、1992年、単行本1968年)A 奥州藤原氏の滅亡というと、鎌倉時代を扱った歴史小説では話題としては外せないものの、たいていは秀衡と義経のあいつぐ死、頼朝自身による奥州討伐、味方の裏切りによる泰衡…

東野圭吾『犯人のいない殺人の夜』B+、吉野源三郎『エイブ・リンカーン』A

【最近読んだ本】 東野圭吾『犯人のいない殺人の夜』(光文社文庫、1994年、単行本1990年)B+ 東野圭吾の初期短篇集ということだが、どれも質が高い。とくに学生がかかわるものが良かった。表題作など大人のミステリはひねりすぎた感じがあるが、少年ものは…

吉川英治『平の将門』B+、北方謙三『悪党の裔』B

【最近読んだ本】 吉川英治『平の将門』(吉川英治歴史時代文庫、1989年、単行本1952年)B+ 吉川英治の描く将門は、英雄でもなんでもない。 イメージとしては、気の優しい力持ち、というところだろうか。頭は良くない。学もなく、弁も立たない。むしろ、一族…

今東光『蒼き蝦夷の血 第4巻』B、馳星周『不夜城』B

【最近読んだ本】 今東光『蒼き蝦夷の血 第4巻 奥州藤原四代・秀衡の巻 下巻』(徳間文庫、1993年、単行本1978年)B 古本屋に最終巻の4巻だけあったので買ってきてみたが、中をのぞくとほとんど義経による平家滅亡の話だったので、問題なく読める。話は平家…

道尾秀介『光』B、梓林太郎『回想・松本清張 私だけが知る巨人の素顔』A

【最近読んだ本】 道尾秀介『光』(光文社文庫、2015年、単行本2012年)B 小学生男子のひと夏の冒険を描いた、道尾版『スタンド・バイ・ミー』である――ということに気づいたのは、エピローグでそれぞれのその後が語られてからだが。 面白いのだが、どうして…

東野圭吾『十字屋敷のピエロ』B、葉室麟『実朝の首』B

【最近読んだ本】 東野圭吾『十字屋敷のピエロ』(講談社文庫、1992年、単行本1989年)B 十字型の奇妙な屋敷で起こる連続殺人事件を描くミステリ。本作ではもう一ネタ、意識を持つ奇妙なピエロ人形というものが出てきて、そのピエロから見た事件が語られる。…

澤村伊智『予言の島』B、村崎友『風の歌、星の口笛』B

【最近読んだ本】 澤村伊智『予言の島』(角川ホラー文庫、2021年、単行本2019年)B 終盤までは楽しんで読めた気がする。舞台は瀬戸内海にある小さな島である。20年前、ある有名な霊能力者が「恐ろしい惨劇が起こる」と予言して死んだというその島に、「運命…

二階堂黎人『聖アウスラ修道院の惨劇』B+、梅原克文『サイファイ・ムーン』B

【最近読んだ本】 二階堂黎人『聖アウスラ修道院の惨劇』(講談社文庫、1996年、単行本1993年)B+ 実は二階堂黎人を初めて読んだ気がするのだが、予想していたより面白かった。これは日本で宗教ミステリを試みた、稀有な例である。野尻湖畔にある日本とは思…

今邑彩『そして誰もいなくなる』B、辻仁成『海峡の光』B

【最近読んだ本】 今邑彩『そして誰もいなくなる』(中公文庫、2010年、単行本1996年)B 名門女子高で、演劇部の生徒たちが『そして誰もいなくなった』になぞらえるように次々に殺されていき、殺された生徒たちがそれぞれに犯していた「罪」が明らかになって…

機本伸司『メシアの処方箋』A、邦光史郎『源九郎義経』B

【最近読んだ本】 機本伸司『メシアの処方箋』(ハルキ文庫、2007年、単行本2004年)A SFというジャンルのひとつの極北と言えるかもしれない。 「技術的に可能だからやる」というSFのひとつの原則をつきつめた、読者をも置いてきぼりの思考実験小説である。 …

島田雅彦『カオスの娘 シャーマン探偵ナルコ』B、野城亮『ハラサキ』B

【最近読んだ本】 島田雅彦『カオスの娘 シャーマン探偵ナルコ』(集英社、2007年)B シャーマンとしての力を持ち現代に生きる少年が、凶悪な犯罪の犠牲んになって、自身もまた凶悪な犯罪者となった少女を助けるべく、巨大な悪と自身の運命に立ち向かうスピ…

周木律『眼球堂の殺人』B、マシュー・メイザー『サイバーストーム 隔離都市(上・下)』B

【最近読んだ本】 周木律『眼球堂の殺人』(講談社文庫、2016年、単行本2013年)B 新本格の王道である館もの。面白かったのだが、放浪の数学者という主人公にあまり魅力がなく、館も見た印象がなんだかスカスカな感じで、圧倒的な存在感というものがなく、ち…

ブレイク・クラウチ『パインズ 美しい地獄』B+、今村昌弘『屍人荘の殺人』A

【最近読んだ本】 ブレイク・クラウチ『パインズ 美しい地獄』(東野さやか訳、ハヤカワ文庫、2014年)B+ ある男が路上で目覚めるところから始まる。彼は記憶を失った状態でふらふら歩きだすが、やがて自分がシークレットサービスの特別捜査官であること、失…

井上夢人『オルファクトグラム(上・下)』A、カザケービチ『青いノート』B+

【最近読んだ本】 井上夢人『オルファクトグラム(上・下)』(講談社文庫、2005年、単行本2001年)A これは絶対に面白いと思って、万全のコンディションのときに読もうと思いつつ、機会を得ずに15年くらい積んだままになっていた本を、ようやく読んだ。 そ…

石持浅海『二歩前を歩く』B、定金伸治『ジハード1』B

石持浅海『二歩前を歩く』(光文社、2014年)B 石持浅海らしい、安定したクオリティで読ませる短編集。 超常現象を扱ったミステリということでその辺の議論をするのかと思いきや、現象自体は認めて、それが起こるのにはどんな論理があるのか、ということを解…

野阿梓『五月ゲーム』B、倉知淳『ほうかご探偵隊』B

【最近読んだ本】 野阿梓『五月ゲーム』(ハヤカワ文庫、1992年)B 銀河帝国打倒を目指す秘密結社・狂茶党(マッド・ティーパーティー)に属する若き美貌のテロリスト、レモン・トロツキーの闘いを描く冒険SF――なのだが、本作では目的地への移動中に別のテロ…

吉川英治『源頼朝』B、桜田晋也『尼将軍 北条政子1 頼朝篇』B

【最近読んだ本】 吉川英治『源頼朝』(全2巻、吉川英治歴史時代文庫、1990年、単行本1940~1941年)B 吉川英治が『新・平家物語』(1950~1957)に先だって書かれた、源頼朝を主人公とする作品。新平家に対しての影の薄さはどういうことかと思ったら、源義…

中島義道『非社交的社交性』B、貴志祐介『青の炎』B+

【最近読んだ本】 中島義道『非社交的社交性』(講談社現代新書、2013年)B まとまりのない本であると思ったら、主に全50回の新聞連載をまとめたものであるそうだ。内容は主に、著者が今まで出会ってきた非社交的な人の記録であり、また私塾の宣伝でもあり、…

清水義範『グローイング・ダウン』A、あさのあつこ『晩夏のプレイボール』B+

【最近読んだ本】 清水義範『グローイング・ダウン』(講談社文庫、1989年、単行本1986年)A 清水義範の、比較的初期の短編集。同人活動を経て単行本デビューが1977年で、本書に収録の短編は1982年~1986年あたりに書かれている。1986年に『蕎麦ときしめん』…

若竹七海『依頼人は死んだ』B、長谷川卓『もののふ戦記 小者・半助の戦い』A

【最近読んだ本】 若竹七海『依頼人は死んだ』(文春文庫、2003年、単行本2000年)B 若竹七海は20年くらい前に『火天風神』を読んだことがあって、若者ゆえの痛々しさが嵐に遭難して次々にあらわになっていく、その残酷さにショックを受けて、ずっと敬遠して…

田口ランディ『コンセント』B、門田泰明『黒豹伝説』B

【最近読んだ本】 田口ランディ『コンセント』(幻冬舎文庫、2001年、単行本2000年)B アパートの一室で腐乱死体となって発見された兄。妹の朝倉ユキは、理由のわからない彼の死に戸惑う。興味を引かれたのは、死体の傍にあった、コンセントをつながれたまま…

志茂田景樹『新黙示録 北海の秘祭』B、熊谷達也『七夕しぐれ』B+

【最近読んだ本】 志茂田景樹『新黙示録 北海の秘祭』(徳間文庫、1988年、単行本1983年)B 実は志茂田景樹をちゃんと読むのは初めてである。昔たしかこの著者の『水滸伝』を読んで、「イケイケボーイの林冲」などという記述にくらくらしたのは憶えているが…

東野圭吾『おれは非情勤』B、中岡潤一郎『スカーレット・ストーム』B

【最近読んだ本】 東野圭吾『おれは非情勤』(集英社文庫、2003年)B 就職に熱心でなく、非常勤講師として小学校を渡り歩いている「おれ」が、行く先々で遭遇した事件を解決していく連作ミステリ。 連載誌が「五年の科学」「六年の科学」という、東野ミステ…

樋口明雄『ハイスクール重機動作戦』A、島田荘司『天に昇った男』B-

【最近読んだ本】 樋口明雄『ハイスクール重機動作戦』(富士見ファンタジア文庫、1990年)A 先日、松岡圭祐の『高校事変』(2019年)を読んだのだが、この作品のパクリだったのではないかというくらいによく似ている。 まあ、「高校をある日突然謎のテロリ…

村上龍『五分後の世界』B、渡辺一雄『偽装買収』B

【最近読んだ本】 村上龍『五分後の世界』(幻冬舎文庫、1997年、単行本1994年)B コロナ禍で再評価の声もある『ヒュウガ・ウイルス』に先立つ第一作。こちらはこちらで、異世界転生ものの先駆けと言えなくもない。ジョギングをしていた男が、ある日突然、時…