DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

読書

塚本青史『仲達』B-、パトリシア・カーロン『行きどまり』B

【最近読んだ本】 塚本青史『仲達』(角川文庫、2012年、単行本2009年)B- 司馬懿仲達が主人公という珍しい小説。司馬懿ははたらきが大きい割に、前面に出てくるのがやや遅いのと、諸葛亮の人気のせいか、不遇な人である。本作は曹操の死の直後からはじまり…

神坂次郎『秘伝洩らすべし』B、ジェイムズ・デラーギー『55』B

【最近読んだ本】 神坂次郎『秘伝洩らすべし』(河出文庫、1986年)B 薄くて読みやすいが、クセの強い短編集である。 神坂の代表作である『元禄御畳奉行の日記』は、実在の日記を読み解くことではなやかな元禄時代の陰の部分をあばきだしてみせたが、本書で…

北方謙三『不良の木』B、フレデリック・ポール『チェルノブイリ』B

【最近読んだ本】 北方謙三『不良の木』(光文社文庫、1994年、単行本1991年)B しがない私立探偵が、山奥で怪我した14歳の少年を偶然たすけたことから、少年とその親の確執をめぐるトラブルに巻きこまれる。淡々とした無駄のない文体、信条をつらぬくスタイ…

ジェイムズ・サリス『黒いスズメバチ』B、リチャード・プレストン『ホット・ゾーン』B

【最近読んだ本】 ジェイムズ・サリス『黒いスズメバチ』(鈴木恵訳、ミステリアス・プレス文庫、1999年、原著1996年)B ニューオーリンズを舞台に、黒人の私立探偵を主人公としたハードボイルドという異色作。時代は60年代末で、人種差別が公然とまかり通る…

佐々木禎子『くくり姫』B、パトリシア・カーロン『ささやく壁』B

【最近読んだ本】 佐々木禎子『くくり姫』(ハルキ・ホラー文庫、2001年)B 懐かしき世紀末小説、という印象である。幼いころから性的虐待を加えていた父を殺してしまった11歳の少女が、脳裏に響く菊理姫(くくりひめ)の予言に導かれたという謎の大学生の青…

黒澤いづみ『人間に向いてない』B、マーティン・ラッセル『迷宮へ行った男』B

【最近読んだ本】 黒澤いづみ『人間に向いてない』(講談社文庫、2020年、単行本2018年)B カフカの『変身』において謎なのは、虫に変貌したグレゴール・ザムザよりも、むしろ家族の反応のほうではないか――という話を読んだことがある。それに対して考えたの…

  浅暮三文『石の中の蜘蛛』B、ドン・ペンドルトン『眼と眼が』C

【最近読んだ本】 浅暮三文『石の中の蜘蛛』(集英社文庫、2005年、単行本2002年)B 浅暮三文の本を久しぶりに読んだ。彼の作品の多くは奇想小説に分類されると思うが、アイデアは奇抜であっても小説自体はスタンダードに徹しているというところに特徴がある…

豊島ミホ『夜の朝顔』B、ドナルド・E・ウエストレーク『悪党たちのジャムセッション』A

【最近読んだ本】 豊島ミホ『夜の朝顔』(集英社文庫、2009年、単行本2006年)B ある地方都市(作者の出身を考えると秋田だろうか)に住む女の子・センリを主人公に、小学1年生から6年生までに出会ったいくつかの小さな「事件」を描く連作短編集。 「事件」…

太田忠司『僕の殺人』B、ジェイ・ベネット『殺し屋によろしく』B

【最近読んだ本】 太田忠司『僕の殺人』(講談社文庫、1993年、単行本1990年)B 15歳の少年が、10年前の両親の死の謎、そしてその事件で失われた彼自身の記憶の秘密を探っていく。 青春ミステリ――と呼ぶには、あまりに残酷である。青春ミステリにおいては普…

芹澤準『郵便屋』B、エリック・ライト『神々がほほえむ夜』B

【最近読んだ本】 芹澤準『郵便屋』(角川ホラー文庫、1994年) B 平凡な男のもとにある日、差出人不明の奇妙な手紙がとどく。その手紙にはたったひとこと、「ひとごろし」と書かれてあった。その不気味な手紙は、その日から彼のもとに毎日届くようになる。 …

森村誠一『凶学の巣』C、東野圭吾『宿命』B

【最近読んだ本】 森村誠一『凶学の巣』(新潮文庫、1984年、単行本1981年) C 校内暴力に悩まされる中学校で殺人事件が起こり、暴力グループのリーダーが疑われる。しかし彼は皮肉にも、その時間はある教師の妻を強姦していたという「アリバイ」があった。…

荒巻義雄『エッシャー宇宙の殺人』B、阿刀田高『楽しい古事記』A

【最近読んだ本】 荒巻義雄『エッシャー宇宙の殺人』中公文庫、1986年、単行本1983年 B 人の見る夢が創り上げた街・カストロバルバ。人と人の意識が融合し、空間がねじ曲がる、エッシャーの絵画そのもののような世界で起こる殺人事件に、夢探偵・万治陀羅男…

安岡章太郎において隠されたもの

【最近読んだ本】 安岡章太郎『サルが木から下りるとき』(角川文庫、1974年、連載は朝日新聞1970年)B 安岡章太郎というのは、文壇の大御所的な存在であったにもかかわらず、どちらかといえば地味な印象がある。小説やエッセイを読むと、起こったことを順に…

小林秀雄とクリシュナムルティ――『栗の樹』感想

【最近読んだ本】 小林秀雄『栗の樹』(講談社文芸文庫、1990年)A 小林秀雄を読むときは、デジャヴのような気持ち悪さに悩まされる。何しろ重複が多いのだ。たとえば有名な「無常という事」は、収録されている本を文庫で調べてみただけでも、 『無常という…

斎藤肇『<魔法物語>シリーズ』A、K・クリパラーニ『ガンディーの生涯』A

【最近読んだ本】 斎藤肇『<魔法物語>シリーズ』A 『魔法物語 上 黒い風のトーフェ』(講談社文庫、1993年、単行本1990年) 『魔法物語 下 青い光のルクセ』(講談社文庫、1993年、単行本1990年) 『新・魔法物語 竜形の少年』(講談社文庫、1996年) 『魔…

星新一『白い服の男』A、ジョン・バーンズ『軌道通信』B

【最近読んだ本】 星新一『白い服の男』(新潮文庫、1977年8月)A 久しぶりに読んだ。ショートショートとしてはやや長めだろうか。 よく言えば寓話的、悪く言えば単純で、メッセージがわかりやすすぎるきらいはあるが、それだけに後に生まれた色々な物語の原…

早乙女貢『志士の肖像(上・下)』A、三好京三『子育てごっこ』C

【最近読んだ本】 早乙女貢『志士の肖像(上・下)』(集英社文庫、1995年、単行本1989年)A 14歳という最年少で松下村塾に入塾し、幕末から明治維新の動乱を生き抜き、明治政府では陸軍中将や司法大臣として活躍した、山田顕義が主人公。彼は明治時代には会…

矢野隆『我が名は秀秋』B、早乙女貢『若き獅子たち(上・下)』A

【最近読んだ本】 矢野隆『我が名は秀秋』(講談社文庫、2018年、単行本2015年)B 関ヶ原の戦いにおける家康の勝利に最大の貢献をした一人ながら、裏切り者として軒並み評判が悪い、小早川秀秋が主人公。 司馬遼太郎の『関ヶ原』などでは、自分がやったこと…

大江健三郎『奇妙な仕事・飼育』A、ドット・ハチソン『蝶のいた庭』B

【最近読んだ本】 大江健三郎『奇妙な仕事・飼育』(新潮文庫、1959年、単行本1958年)A 大江健三郎は初期作品が良い、というと大抵賛同が得られるのだが、本書を久しぶりに読んで、やはり名作揃いであると思った。それは何故か考えてみると――江藤淳の解説で…

滝口康彦『流離の譜』B+、水上勉『修験峡殺人事件』B-

【最近読んだ本】 滝口康彦『流離の譜』(講談社文庫、1988年、単行本1984年)B+ 歴史小説では、長州征伐の指揮官として大軍を率いて出征するも、高杉晋作や大村益次郎に翻弄され、あげく将軍家茂の死に動揺してろくな戦果もあげずに兵を引き上げてしまった…

アンナ・カヴァン『氷』B、池平八『ネグロス島戦記』A

【最近読んだ本】 アンナ・カヴァン『氷』(山田和子訳、ちくま文庫、2015年、原著1967年)B 異常な寒さが続き、終末が予感されている世界を舞台に、ある少女と彼女を追って旅する男を描く。少女と呼ばれているが読んでいたら21歳ということがわかってちょっ…

津本陽『わが勲の無きがごと』B、レス・スタンディフォード『汚染』B

【最近読んだ本】 津本陽『わが勲の無きがごと』(文春文庫、1988年、単行本1981年)B 短いながら密度の濃い作品。ニューギニアに出征して帰還した義兄が戦争で何を見てきたのか――武道に優れた尊敬する義兄が、度を越した慇懃さと用心深さ、人間不信を兼ねそ…

柚木麻子『終点のあの子』B、ビル・グレンジャー『ラーゲリを出たスパイ』B

【最近読んだ本】 柚木麻子『終点のあの子』(文春文庫、2012年、単行本2010年)B 都内にあるプロテスタント系女子高に入学した生徒たちの青春を描いたデビュー作「フォーゲットミー、ノットブルー」(オール讀物新人賞受賞作)と、その続編にあたる3作品を…

岬兄悟『あたしがママよ』B、清水一行『毒煙都市』A

【最近読んだ本】 岬兄悟『あたしがママよ』(角川文庫、1986年)B 見事にワンパターンな短篇集である。まず、 ①現状に不満を持つ人がいて、 ②それを脱出する糸口としての超常現象が起こるが、 ③最後にしっぺ返しを食らう。 不満を持っている人の性別や境遇…

酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明 第壱部』B、篠田節子『夏の災厄』 A

【最近読んだ本】 酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明 第壱部』(文春文庫、2009年、単行本2004年)B タイトルは井上ひさしの『泣き虫なまいき石川啄木』のオマージュか。「泣き虫弱虫」などというから、いくじなしの孔明が、追い詰められてヤケクソの策がうまく…

東野圭吾『天空の蜂』B、ソルジェニーツィン『煉獄のなかで』A

【最近読んだ本】 東野圭吾『天空の蜂』(講談社文庫、1998年、単行本1995年)B 爆薬を載せた無人のヘリが原発の上空をホバリングし、日本の全原発の停止を要求する――という、地味に工作員が忍び込むのと比べて派手で効果も高そうな「その手があったか!」と…

赤川次郎『台風の目の少女たち』B、山本美希『ハウアーユー?』A

【最近読んだ本】 赤川次郎『台風の目の少女たち』(ハルキ文庫、2012年)B 夫も娘も捨てて不倫の末駆け落ちをしようとしていた女性が、大型台風の接近によりそれを阻まれる――というところから物語が始まる。嵐を避けて、山間の町の人々は近くの体育館を避難…

宇津田晴『俺の立ち位置はココじゃない!』B、梨屋アリエ『スリースターズ』B

【最近読んだ本】 宇津田晴『俺の立ち位置はココじゃない!』(ガガガ文庫、2017年)B 男らしくなりたいのに「姫」と呼ばれている少年と、女らしくなりたいのに「王子様」と呼ばれている少女が出会い、「理想の自分」を目指して協力して奮闘するコメディ。 …

源氏鶏太『永遠の眠りに眠らしめよ』B、ジャック・カーティス『グローリー(上・下)』B

【最近読んだ本】 源氏鶏太『永遠の眠りに眠らしめよ』(集英社文庫、1985年、単行本1977年)B サラリーマン小説の草分け的存在として知られる源氏鶏太が、作家人生の後期に手掛けた怪奇小説のひとつ。 主人公は、ある日突然、社長の急死によりその後釜に座…

小田実『ガ島』B、フレデリック・ポール『ゲイトウエイ』B

【最近読んだ本】 小田実『ガ島』(講談社文庫、1979年、単行本1973年)B 遺骨収集という名目で金儲けのクチを求めてガダルカナル島を訪れた大阪商人が、ジャングルで遭難し、彷徨の末に幻覚の中で日本軍の一兵卒となり、ガ島=餓島の激戦の悪夢を見る。今で…